2025年に日本を訪れた外国人は4,268万人、旅行消費額は9兆4,559億円——ともに過去最高を更新しました。多くのお店にとって訪日客は、もう「たまに来る特別なお客様」ではなく、日常の客層になりつつあります。ただし彼らは、日本人と同じ道筋ではお店にたどり着きません。出発前はSNSと動画で候補を集め、滞在中はスマートフォンの地図アプリで「いま行く店」を決める。そして出発前に日本語の情報を役立てた人は、わずか11.2%。公的統計と民間調査から、訪日客の「店の探し方」をたどります。
観光庁「インバウンド消費動向調査」の2025年年次報告書によると、出発前に役に立った旅行情報源の1位はSNS(43.3%)、2位は動画サイト(39.6%)、3位は個人のブログ(23.9%)でした。一方、日本政府観光局ホームページは12.2%、旅行会社ホームページは11.8%、宿泊施設ホームページは11.1%。個人の発信(SNS・動画・ブログ)が、公式系のホームページに大差をつけて上位を占める構図です。しかもSNSは前年の38.9%から43.3%へ、動画サイトも38.1%から39.6%へ伸びており、傾向は年々強まっています。
出発前に役に立った旅行情報源(全国籍・地域、複数回答・上位抜粋)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(2026/3/31公表・全国籍・地域・複数回答/2026-06-25閲覧) mlit.go.jp
検討している人の母数は巨大です。日本政策投資銀行(DBJ)と日本交通公社がアジア・欧米豪12地域の海外旅行経験者7,413人に尋ねた意向調査(2025年度版)では、「次に観光旅行したい国・地域」で日本が54%で1位。行きたい人は世界にあふれています。ただし、その旅程に入れるのは「出発前のタイムラインに現れた店」だけ。勝負の多くは、飛行機が日本に着く前についているのです。
日本に着いてからの情報行動は、さらに一極集中しています。同調査の2024年年次報告書では、日本滞在中に役に立った旅行情報源はスマートフォンが89.5%で、2位の観光案内所(13.3%)に7倍近い差をつけました。では、スマホで何を調べているのか。2025年年次報告書によると、滞在中に役に立った旅行情報は交通手段(65.9%)に次いで飲食店(56.0%)。観光施設(39.1%)や宿泊施設(38.0%)を上回り、「どこで食べるか」は旅の最重要検索テーマになっています。
民間調査は、その受け皿がどのアプリかを具体的に示します。訪日客向けアプリを運営するPaykeが2025年6月に訪日客1,827人へ行った調査では、日本滞在中にGoogleマップを使った人は99%。新しい飲食店を「見つける」手段としても地図アプリが約50%で最多、メニューや営業時間などの詳細確認でも67.1%が地図アプリを使っていました。日本人に定番のグルメサイトの利用は、日本を何度も訪れるリピーター層でも14.87%にとどまります。
99%
日本滞在中にGoogleマップを利用した訪日客の割合。飲食店の「発見」でも地図アプリが約50%で最多だった
出典:Payke「訪日観光客の移動にまつわる実態調査」(2025/6・n=1,827・自社アプリ利用者)prtimes.jp
訪日客にとっての「お店のホームページ」は、実質的にGoogleマップ上の情報。地図に載っている写真・営業時間・口コミが、そのまま店の顔になっています。
ここで、見落とされがちな数字があります。観光庁の2024年年次報告書には「出発前に役に立った旅行情報源の言語」という項目があり、最多は英語(50.3%)、次いで韓国語(24.5%)、中国語・繁体字(23.5%)、中国語・簡体字(17.1%)。日本語は11.2%でした。
出発前に役に立った旅行情報源の「言語」(全国籍・地域、複数回答)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2024年 年次報告書」(2025/3/31公表・全国籍・地域・複数回答/2026-06-25閲覧) mlit.go.jp
つまり、訪日客の約9割は、出発前の情報収集で日本語の情報を役立てていません。お店のWebサイトやSNS、地図上の紹介文が日本語だけで書かれている場合、その店は出発前の候補選びの土俵に上がりにくい——読めない情報は、探している人にとって存在しないのと同じだからです。滞在中も構図は変わらず、地図アプリで見つけた店の店名・メニュー・口コミが「読めるかどうか」が、入店の判断を左右します。
店が「そこにある」ことと、訪日客に「見つかる」ことは別の問題。分かれ目は、読める言語の情報がWeb上にあるかどうかです。
データが示す優先順位は明確です。①Googleビジネスプロフィールの整備:99%が使う地図アプリに載る情報の土台です。営業時間・写真・メニュー・属性情報を正確に埋める。Googleマップの店舗情報や口コミは閲覧者の言語へ自動翻訳されて表示されるため、情報を正確に・厚くすること自体が多言語対応になります。②英語の基本情報:出発前に役立った情報の言語は英語が50.3%で最多。Webサイトやメニューに最低限の英語を用意し、主要な客層に応じて韓国語・中国語を足します。③SNS・動画での発信:出発前の2大情報源(SNS43.3%・動画39.6%)への露出です。写真や動画は言語の壁を越えやすく、位置情報と店名のタグが検索の入口になります。④口コミ・評価の蓄積:DBJ・日本交通公社の同調査では、日本の地方観光地を訪れたい理由として「SNSや旅行サイトでの高評価、メディアでの紹介が多い訪問地を訪れたいから」に76%が同意しました。評価の数と質は、出発前・滞在中の両方で「選ぶ根拠」として参照されます。
76%
「SNSや旅行サイトでの高評価、メディアでの紹介が多い訪問地を訪れたい」に同意した訪日意向者の割合
出典:DBJ・日本交通公社「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2025年度版」(2025/11・地方観光地訪問意向者n=4,807)jtb.or.jp
訪日客の探し方は、「出発前はSNSと動画、滞在中は地図アプリ」という形に固まりつつあります。4,268万人に見つけてもらうために必要なのは、大がかりな投資ではありません。いまあるお店の情報を、「見つかる場所」に「読める形」で置き直すこと。その一歩の価値を、データは静かに示しています。