BtoBサービスや制作・コンサルのサイトでよく見かける一行があります——「料金はお問い合わせください」。悪気はありません。案件ごとに金額が違うから書けない、それだけです。しかし買い手の側から見ると、この一行は「うちは比較できません」という宣言に近い。料金を隠すことが、どれだけの見込み客を静かに逃しているのか。データで確かめます。
BtoBサービスに問い合わせ・資料請求をした経験のある221名に「サイト内で確認したコンテンツ」を聞いた国内調査では、1位が「料金・費用に関する情報」で54.4%。「自社の課題を解決できる情報」(46.6%)や「導入事例・支援事例」(44.5%)を上回りました。さらに「問い合わせの決定打になったコンテンツ」を1つだけ選んでもらっても、「料金・費用」が25.7%で1位。買い手は料金を、検討に含めるかどうかを判断する「最初のフィルター」として使っているのです。
BtoBサイト訪問者が「サイト内で確認した」コンテンツ(複数回答)
出典:Cone「BtoBサイト訪問者は何を見て問い合わせを決めているのか」(2025/10・n=221) prtimes.jp
これは最近の傾向ではありません。2018年の調査でも、BtoB商材の検討時に提供企業のWebサイトを参考にした人のうち65.0%が「価格/料金表」を参照——「製品/サービス情報」(87.9%)に次ぐ2位で、「実績/事例情報」(61.1%)よりも上でした。買い手が企業サイトに来る目的の中に、「値段を確かめること」が昔から太く入っているのです。
65.0%
BtoB商材の検討時、企業サイトで「価格/料金表」を参照した人(参考にしたコンテンツ2位)
出典:ITコミュニケーションズ「BtoB商材の購買行動に関するアンケート調査」(2019/1・n=445、うちWebサイト参照157名)it-comm.co.jp
「問い合わせをもらってから説明すればいい」——そう考えたくなりますが、買い手はそこまで待ってくれません。2025年の国内調査では、BtoB商材の比較検討の対象は「3つ以内」が81.4%(1つ16.8%・2つ31.9%・3つ32.7%)。買い手は問い合わせる前に候補を数社まで絞り込み、その絞り込みはWebサイト上の情報だけで行われます。料金がわからない会社は、この段階で「比較のしようがない」と静かに外されるリスクを抱えます。
81.4%
BtoB商材の比較検討で、候補を「3つ以内」に絞っている人の割合
出典:ITコミュニケーションズ/B2Bマーケティング 共同調査「BtoB商材の購買行動に関する実態調査レポート2025」(2025/5・n=517)atpress.ne.jp
海外(参考)のデータも同じ構図を示します。米国のB2B購買関与者262名への調査(2015年版)では、ベンダーサイトに「必須(must have)」の営業・製品情報として78%が「価格」を挙げ、配送情報(62%)や製品レビュー(52%)を大きく引き離して1位。さらに見積もり依頼に進む前提条件として「製品価格の掲載」を挙げた人も43%にのぼりました。一方で同じ調査では、「ベンダーサイトに欠けている情報」の上位にも価格が入っています。買い手が最も求める情報を、売り手が最も出し渋っている——このギャップこそ、料金表示の問題の核心です。
ベンダーサイトに「必須」の営業・製品情報【海外(参考)】
出典:Huff Industrial Marketing/KoMarketing「2015 B2B Web Usability Report」(2014/10-11調査・n=262・海外/2026-07-03閲覧) huffindustrialmarketing.com
「料金はお問い合わせください」は、売り手の都合です。買い手にとっては「比較に必要な情報をくれない会社」。問い合わせは来ず、候補から静かに外れていくだけです。
これはBtoBだけの話ではありません。全国の20〜59歳・1,037名への外食調査(2025年)では、お酒を伴う夕食の店選びで重視することの1位が「料理・メニュー」で54.3%(2022年比+13.3ポイント)、2位が「価格帯」で38.6%(同31.0%から+7.6ポイント)。昼食では「価格帯」を重視する人が52.1%と、2022年の44.0%から大きく伸びました。値上げが続くなかで、生活者は「何が、いくらで食べられるか」を入店前・予約前に確かめてから動くようになっています。
飲食店選びで重視すること(2025年・複数回答)
出典:MS&Consulting「外食アンケート調査」(2025/7-8・n=1,037・価格帯重視は2022年比で昼食44.0%→52.1%、夕食31.0%→38.6%に上昇) msandc.co.jp
メニューと料金の目安が事前にわからない店は、「入ってみないと予算が読めない店」として選択肢から落ちやすくなる。BtoBの買い手も、ランチの店を探す生活者も、行動は同じです。価格がわからない=不安。事前に確かめられる=安心して選べる。あなたの会社のWebサイトも、まったく同じ目で見られています。
「案件ごとに金額が違うから書けない」——その事情は本物です。でも、正確な金額が書けないことと、何も書かないことは違います。金額が変わるなら、「いくら〜いくらの幅」と「何によって変わるのか」をセットで書く。それだけで買い手は予算感を持って比較でき、「この会社は誠実に説明してくれる」という信頼の第一票につながります。
実務での料金ページの型は4つです。①目安表示——代表的なケースの価格レンジ(例:「◯◯万円〜◯◯万円」)と、金額が変わる要因(規模・範囲・オプション)を明記する。②松竹梅の3プラン——選ばれやすい「真ん中」を用意し、何が含まれて何が含まれないかを線引きする。③よくある質問——追加費用・支払い条件・解約条件など、聞きにくいお金の質問に先回りして答える。④見積りの流れ——問い合わせから見積り提示までの手順と日数を示し、「連絡したら何が起きるか」の不安を消す。
③の「よくある質問」は特に軽視されがちです。国内の意識調査(2021年・二次)では、企業に確認したいことがあるとき消費者の78.0%が「WebサイトのFAQ(よくある質問)」をよく使うと答えた一方、FAQを用意している企業は60.4%にとどまりました。お金まわりの疑問こそ、問い合わせの手前で答えておく価値があります。
正確な金額が出せなくても、「目安」と「変わる理由」は今日から書けます。それを書くことが誠実さの証明であり、比較の土俵に乗るための入場券です。
買い手はサイト上の料金で会社をふるいにかけ(54.4%・65.0%)、候補を3社以内に絞り(81.4%)、生活者も価格の事前確認を前提に店を選ぶ(52.1%)。この流れのなかで、料金を隠すことに勝ち筋はありません。「料金はお問い合わせください」を、「目安+理由+よくある質問」に書き換える——それが、お客様を逃さない料金ページの最初の一歩です。
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