「お客様が来ない」と並んで、「人が採れない」が経営の中心議題になりつつあります。2025年1月時点で、正社員が不足していると答えた企業は53.4%。人手不足を理由とした倒産は2025年度に441件と、3年連続で過去最多を更新しました。採用難はもはや総務・人事だけの悩みではなく、売上・営業時間・サービスの質を直接左右する経営問題です。本記事では、その現在地を公的データと大手調査で整理します。
帝国データバンクが全国1万1,014社から回答を得た調査(2025年1月)によると、正社員が「不足している」と感じている企業は53.4%。コロナ禍(2020年4月)以降で最も高い水準です。非正社員についても30.6%が不足と回答しており、パート・アルバイトを含めても、およそ3社に1社は現場の人手が埋まっていません。
53.4%
正社員が「不足している」と感じている企業の割合。コロナ禍(2020年4月)以降で最高
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2025年1月)」(2025/2・有効回答1万1,014社)tdb.co.jp
中小企業に絞った調査でも傾向は同じです。日本商工会議所・東京商工会議所が全国の中小企業2,988社から回答を得た調査では、65.6%が人手が「不足している」と回答しました。そして業種別に見ると、不足感は「現場を持つ仕事」に集中しています。
正社員が不足している企業の割合(業種別上位・2025年1月)
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2025年1月)」 tdb.co.jp
中小企業白書2025も、人材が不足している職種として製造作業者・販売従業者・サービス職業従業者・運輸従業者・建設作業者といった「現業職」を挙げています。店舗、建設、物流——地域の暮らしと商売を支える現場ほど、人が足りない構図です。
人手不足の影響は、従業員の疲弊だけにとどまりません。東京商工リサーチの調査(2025年2月・有効回答5,392社)では、52.3%の企業が人手不足による「負の影響がある」と回答。その中身を見ると、影響が売上そのものに及び始めていることが分かります。
人手不足の具体的な影響(負の影響がある企業・複数回答)
出典:東京商工リサーチ「人手不足に関するアンケート」(2025/2・有効回答5,392社) tsr-net.co.jp
注目すべきは、「受注や来店予約を断った」企業が35.7%に達している点です。広告や紹介でせっかく獲得した注文・予約を、受けられる人がいないために断る。集客の成果が、人手不足によってそのまま機会損失に変わっています。お客様の側から見れば、それは「予約が取れない」「対応が遅い」——つまりサービスの質と提供量の低下として現れます。
そして行き着く先が、人手不足倒産です。帝国データバンクによると、2025年度の人手不足倒産は441件。前年度(350件)の約1.3倍で、3年連続の過去最多更新です。内訳は建設業が112件(全体の25.4%)、道路貨物運送業55件、飲食店21件など。さらに、従業員の退職をきっかけとする「従業員退職型」が年度として初めて100件を超え、4年連続で増加しました。仕事はあるのに、人がいないから続けられない——そうした形の倒産が、統計として積み上がっています。
集客がうまくいっても、受け止める人がいなければ売上にはならない。人手不足は「求人の問題」ではなく、機会損失という形で損益に現れる経営の問題です。
では、費用をかければ解決するのでしょうか。中小企業白書2025によると、採用担当者の人件費・求人広告費・採用仲介手数料などの採用コストが5年前と比べて「増加した」と回答した事業者は約7割に上ります。
約7割
採用コスト(人件費・求人広告費・仲介手数料等)が5年前より「増加した」と回答した中小事業者の割合
出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第2-1-47図(2026-07-07閲覧)chusho.meti.go.jp
賃金も上がっています。日本商工会議所・東京商工会議所の同調査では、賃上げを「実施予定」とした中小企業は61.3%。それでも冒頭の通り、不足感はコロナ禍以降で最高の水準にあります。コストを積んでも、それだけでは人が集まらない——採用市場は、広告費を投じても選ばれる理由がなければ成果につながらない集客市場と、同じ構造になりつつあります。
さらに白書は、採用後の「定着」の差も示しています。人材が不足している事業者では、直近3年間に採用した従業員の定着率が「3割未満」にとどまる割合が高い一方、不足していない事業者では定着率「7割以上」の割合が高い。採れないうえに、採っても辞めてしまう。この悪循環が、不足感を固定化させています。
一方で、同じ市場環境でも予定どおり採用できている会社があります。中小企業白書2025の分析では、経営者が自ら採用活動を担っている事業者は「予定人数を採用」できた割合が高いことが示されました。採用を担当者任せ・媒体任せにせず、経営者が自社の魅力と本気度を直接伝えることが、結果につながっています。
また同白書は、人材確保に効果があったと考えられる取組として「有給休暇・育児休業など休暇が取得しやすい職場づくり」「時間外労働の削減」「福利厚生の充実」を挙げ、人材育成の取組を増やした事業者ほど採用者の定着率が高いことも確認しています。共通するのは、賃金だけに頼らず「働く場としての魅力」を実際に高めていることです。
そして求職者は、顧客と同じように会社を「調べて、比べて、選ぶ」時代です。募集を出しても応募が来ない状態は、集客に置き換えれば「検索しても情報が出てこない」「比較で選ばれていない」状態に近い。人手不足への対応は、職場の中身を整える取組と、その魅力を求職者にきちんと届ける発信の両輪で考える必要があります。ここまでのデータが示すとおり、これは採用担当の実務ではなく、売上と存続に関わる経営問題です。集客と同じ真剣さで向き合う価値があります。
その「人手不足」、
集客と同じ経営課題です。
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