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インバウンド / 受入環境

多言語と決済。
迎える準備は、どこまで必要か。

Nest Labインバウンド / 受入環境2026.06.16出典5件

飲食店で多言語対応に困った場面は「料理を選ぶ・注文する際」が65.8%

2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万人——2024年を580万人以上上回る過去最高です。都市だけでなく地方の飲食店・小売店にも、英語のメニューを探すお客様、カードを差し出すお客様が日常的に現れるようになりました。「英語を話せるスタッフが必要か」「決済手段をすべて揃えるべきか」。観光庁と経済産業省の公的調査を重ねて読むと、答えは現実的です。困りごとには順位と場所があり、店の準備にも、データで裏づけられた優先順位があります

「困った」の中身は、言語と決済に絞られてきた。

観光庁は毎年、出国直前の訪日外国人に「旅行中に困ったこと」を聞いています。2026年4月公表の最新調査(2025年度・5空港・4,110件)では、「困ったことはなかった」が43.7%。2023年度調査の29.7%から大きく改善した一方、いまも半数以上は旅行中に何かしらの困りごとに直面しています。上位は「ごみ箱の少なさ」(17.2%)、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」(15.4%)、「観光地や地域の混雑」(12.9%)、「交通機関の利用」(11.3%)、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」(10.9%)、「クレジット/デビットカードの利用」(10.7%)でした。

訪日外国人が旅行中に困ったこと(2025年度・複数回答)

困ったことはなかった43.7%
ごみ箱の少なさ17.2%
スタッフとのコミュニケーション15.4%
観光地や地域の混雑12.9%
交通機関の利用11.3%
多言語表示の少なさ・わかりにくさ10.9%
クレジット/デビットカードの利用10.7%

出典:観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査」(令和7年度・n=4,110・2026-06-16閲覧) mlit.go.jp

ごみ箱・混雑・交通は、主に自治体や交通機関の側の課題です。お店が自力で解決できる困りごとは、実質「スタッフとの会話」「表示」「カード」の3つに絞られます。ちなみに2017年度の同種調査では「無料公衆無線LAN環境」が21.2%で3番目の困りごとでしたが、最新調査の上位項目には現れません。Wi-Fiという定番課題が後景に退き、言語と決済が「残った課題」になっています。

言語の壁の正体は、会話力ではなく「メニュー」。

言語系の困りごとは、起きる場所がはっきりしています。最新調査で、スタッフとのコミュニケーションに困った場所は「飲食店」(38%)が最多。多言語表示で困った場所も、地方部では「飲食店」(23%)が最多です(都市部は「鉄道駅構内」の30%)。観光庁が2017年度に実施した多言語対応の詳細調査(3,225件)でも、多言語表示・コミュニケーションで困った場所は飲食店が28.5%と、鉄道駅(17.4%)・小売店(16.2%)を抑えて1位でした。では、飲食店の「何」に困っているのか。同調査では、困った場面は「料理を選ぶ・注文する際」が65.8%と突出しています。

65.8%

飲食店で多言語表示・コミュニケーションに困った場面は「料理を選ぶ・注文する際」が65.8%で突出(会計の際は8.3%)

出典:観光庁「国内の多言語対応に関するアンケート」(平成29年度・n=920・2026-06-16閲覧)mlit.go.jp

解決策も、旅行者自身が答えています。「最も必要だと思う多言語表示ツール」を1つ選んでもらうと、飲食店では「写真・イラスト入りメニュー」が2,561件中1,390件(約54%)で最多。「お店情報アプリ」(89件)の15倍以上で、「多言語表示メニュー」(857件)をも上回りました。コミュニケーションの道具では「指差し会話シート」(1,130件)が1位です。さらに、訪日客の46.3%は旅行前に自分のスマホへ翻訳アプリを入れて来日し、困ったときは44.7%が翻訳アプリで自力解決しています。最新調査でも、多言語表示で困った人の57%、コミュニケーションで困った人の68%が「ICTツールを利用」して乗り切ったと答えました。

求められているのは流暢な英語ではなく、「写真と英語つきの、指させるメニュー」と、翻訳アプリを一緒に使う姿勢。紙1枚から始められる場所に、困りごとの核心があります。

決済の困りごとは増えている——現場は、やはり飲食店。

多くの困りごとが改善へ向かう中で、逆に増えている項目があります。クレジット/デビットカードの利用で困った人は、7.0%(2023年度)→7.8%(2024年度)→10.7%(2025年度)と3年連続で上昇。主要項目のうち3年間一貫して増えたのは「入国手続き」とこの決済だけで、店側で解決できるのはカードのほうです。そして困った場所は「飲食店」(32%)が最多でした。

背景には、日本の決済環境そのものがあります。経済産業省によると、2024年の日本のキャッシュレス決済比率は42.8%(決済額141.0兆円)。政府が掲げてきた「4割程度」の目標には到達しましたが(将来目標は世界最高水準の80%)、依然として支払いの6割近くはキャッシュレス以外——その中心は現金です。内訳ではクレジットカードが82.9%(116.9兆円)と主役で、コード決済は9.6%(13.5兆円)でした。

店側の「対応済み」にも、見落としやすい中身があります。経産省の店舗向け実態調査(2021年・1,189社)では、キャッシュレス決済の導入率は全体で約7割、飲食店では85.4%、小売店(食品以外)では88.3%。数字だけ見れば対応は進んでいます。ただし飲食店でクレジットカードを導入している店は58.3%にとどまり、コード決済(68.4%)より低いのです。国内客向けのコード決済は入れたが、カードは使えない——そんな店が一定数ある計算で、「キャッシュレス対応済み」と「訪日客のカードが通る」は、同じではありません。

飲食店の決済対応の中身(2021年・店舗調査 n=247)

何らかのキャッシュレス決済を導入85.4%
コード決済68.4%
クレジットカード58.3%
交通系電子マネー33.2%

出典:経済産業省 キャッシュレス推進室「キャッシュレス決済実態調査アンケート」(2021年・2026-06-16閲覧) meti.go.jp

未導入の理由は「客からの要望がない」「手数料が高い」が上位。手数料率は3%台前半が最多で、店が許容できる上限は「2%台まで」が8割超という調査結果もあり、コストの壁は現実です。だからこそ、あらゆる決済を一度に揃える必要はありません。困りごとが実際に起きている一点——飲食店で国際ブランドのカードが使えない——から埋めるのが、データに沿った順番です。

優先順位はこの3つ。「全部やる」は要らない。

公的調査を重ねると、訪日対応の最初の一手は3つに整理できます。①写真つき・英語併記のメニューと料金表:旅行者が「最も必要」と答えた対応で、困りごと最大の現場である「注文」を直接解決します。紙1枚・卓上シートからで十分です。②国際ブランドカードが使える決済手段を1つ:店側で解決できる困りごとのうち、唯一増え続けているのが決済です。タッチ決済対応の端末なら、カードもスマホもまとめて受けられます。③翻訳アプリ前提の接客:お客様の半数は翻訳アプリを持参し、困った人の7割近くがICTツールで乗り切っています。スタッフのスマホに同じアプリを入れ、指差し会話シートを添える——語学研修より先に効く準備です。

一方、かつて定番だった無料Wi-Fiの整備や、多言語サイト・多言語パンフレットの制作は、直近の困りごと上位から外れています。無意味なのではなく、順番があと、ということです。「困ったことはなかった」は2年で29.7%から43.7%へ改善しました。受入環境が良くなるほど、残った困りごとは目立ちます。データが示す順に小さく整える——それが、4,268万人時代の現実的な迎え方です。

多言語も決済も、「全部」は要らない。写真つきメニュー、カードが通る端末、翻訳アプリ——訪日客の困りごとの上位は、この3つでほぼ覆えます。

Sources / 出典

  1. 観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査を実施しました」(令和7年度調査・2026-04-28公表・n=4,110・5空港/困りごと上位項目と3年推移・場所別・ICTツール対応/2026-06-16閲覧) — https://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_00039.html
  2. 観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境整備における国内の多言語対応に関するアンケート」結果(平成29年度調査・2018年公表・n=3,225/困った場所・場面・必要ツール・翻訳アプリ利用/2026-06-16閲覧) — https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810003475.pdf
  3. 経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」(2025-03-31公表・42.8%/141.0兆円・内訳クレジットカード82.9%等/2026-06-16閲覧) — https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250331005/20250331005.html
  4. 経済産業省 商務サービスグループ キャッシュレス推進室「キャッシュレス決済実態調査アンケート 集計結果」(2021年・n=1,189・全国/業種別導入率・未導入理由・手数料/2026-06-16閲覧) — https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/cashless_sub/questionnaire_result.pdf
  5. 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」(2026-01-21公表・2025年年間4,268万3,600人=過去最高・前年比+15.8%/2026-06-16閲覧) — https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html

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