2025年の1年間に、訪日外国人が日本国内で使ったお金は9兆4,549億円。前年より16.4%増え、過去最高を更新しました。そのうち85.5%は宿泊費・買物代・飲食費——ホテル・旅館、小売店、飲食店という「街のお店」が受け取るお金です。ただし、この9.4兆円は、待っているすべての店に等しく流れるわけではありません。訪日客の89.5%はスマートフォンを頼りに日本を旅しています。需要は過去最高でも、それが届くのは「スマホの中で見つかる店」に限られます。
日本政府観光局(JNTO)が2026年1月に発表した2025年の訪日外客数は4,268万人(前年比15.8%増)。それまで最高だった2024年を580万人以上上回り、年間の過去最高を更新しました。そして観光庁が2026年3月31日に公表した確報では、その訪日客が国内で使った旅行消費額は9兆4,549億円(前年比16.4%増)。コロナ前のピークだった2019年(4兆8,135億円)のほぼ2倍の規模です。1人当たりの旅行支出は22万9千円。ひと組の訪日客が、1回の旅行で20万円超を国内に落としていく計算になります。
9.4兆円
2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(前年比16.4%増)で過去最高。訪日外客数4,268万人も過去最高
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)」(2026/3/31公表)・JNTO「訪日外客数」(2026/1/21発表)mlit.go.jp
伸びは2026年に入っても続いています。観光庁が2026年6月30日に公表した1-3月期(2次速報)の消費額は2兆3,373億円(前年同期比2.5%増)。この期は中国の消費額が前年同期比50.0%減と半減しましたが、台湾(3,888億円・22.6%増)が国・地域別の首位に立ち、韓国(12.6%増)・米国(17.0%増)などの伸びが穴を埋めて、全体ではプラスを保ちました。特定の国に依存しない、裾野の広い需要に変わりつつあることを示す数字です。
9兆4,549億円の費目別内訳を見ると、最も大きいのは宿泊費の3兆4,578億円(36.6%)。次いで買物代2兆5,541億円(27.0%)、飲食費2兆688億円(21.9%)と続きます。交通費(10.0%)と娯楽等サービス費(4.5%)を除く大半が、宿泊施設・小売店・飲食店の売上として計上されるお金です。
訪日外国人旅行消費額の費目別構成比(2025年・確報)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)の概要」図表2(2026-07-06閲覧) mlit.go.jp
1人当たりで見ると、22万9千円のうち宿泊費が8万4千円、買物代が6万1千円、飲食費が5万円。さらに同調査の年次報告書によれば、訪日前に期待していたことの1位は「日本食を食べること」で82.2%——ショッピング(62.8%)を上回ります。訪日客にとって「食」は旅の目的そのものであり、飲食店は9.4兆円市場の主役の一つです。
「インバウンドは都市部の話」という見方は、データと合わなくなりつつあります。都道府県別の旅行消費額は、東京都3兆2,867億円、大阪府1兆6,688億円、京都府6,802億円、福岡県4,728億円、北海道4,512億円が上位5つ。確かに都市圏が大きいものの、それだけではありません。
都道府県別にみる訪日外国人旅行消費額・上位5(2025年)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)の概要」参考2。都道府県間交通費等を含まないため合計は全国値と一致しない(2026-07-06閲覧) mlit.go.jp
同じ調査の地域別集計では、三大都市圏(東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫)が75.3%に対し、それ以外の「地方部」の消費額は2兆1,338億円・24.7%。前年の1兆7,361億円から22.9%増と、三大都市圏の伸び(18.8%増)を上回るペースで拡大しています(伸び率は概要の掲載値から算出)。訪問者1人から受け取る消費単価でも、北海道は15.0万円と東京(15.7万円)にほぼ並び、沖縄12.6万円、福岡10.5万円と、地方の単価は決して低くありません。
訪日消費は、都市の大型店だけのものではなくなりました。地方の宿・売店・食堂にも届き得る、全国規模の需要です。
では、この需要はどうやって一軒一軒の店にたどり着くのでしょうか。観光庁の年次報告書によると、日本滞在中に役に立った情報源は「スマートフォン」が89.5%で圧倒的な1位。2位の観光案内所は13.3%にとどまります。そして、滞在中に役立った旅行情報の中身は、交通手段(68.9%)に次いで「飲食店」が57.9%の2位。どの店で食事をするかは、来日後に、現地で、スマホで検索して決められているということです。出発前の情報源もSNS(38.9%)・動画サイト(38.1%)が上位で、旅の前も最中も、店との接点はほぼ画面の中にあります。
89.5%
訪日客が「日本滞在中に役に立った」と答えた情報源=スマートフォン(2位の観光案内所は13.3%)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2024年 年次報告書」(全国籍・地域、複数回答)mlit.go.jp
つまり、9.4兆円の分配は、立地や店の規模だけでは決まりません。訪日客のスマホの中に、①地図アプリ上の正確な店舗情報(営業時間・写真・メニュー)、②自分の言語で読めるクチコミとその返信、③来日前に触れられるSNS・動画の発信——この3つが揃っているかどうかが、「見つかる店」と「見つからない店」を分けます。需要は過去最高を更新し、2026年に入っても伸びています。外から来る9.4兆円を受け取れるかどうかは、その準備があるかどうかで静かに分かれていきます。
9.4兆円は、店を選びながら流れていく需要です。その選択はいま、訪日客のスマホの中で行われています。