しばらく顔を見ないお客様について、お店の側はつい「何か不満があったのだろうか」と考えがちです。しかし、調査データが示す離脱の実像は違います。一度「行かなくなった」常連のうち、「もう行きたくない」と答えた人は14.9%。最も多かった答えは「また行きたい」の43.9%でした(トレタ調べ)。多くのお客様は、嫌いになって消えるのではありません。思い出す機会を失って、静かに消えていく——再来店は、記憶の問題なのです。
まず、リピートが商売に占める大きさから確認します。リクルートのホットペッパーグルメ外食総研が、月1回以上外食する首都圏の20〜64歳を対象に行った「飲食店リピート実態&リピート要因調査」では、外食の利用のうち77.3%が「行ったことのある店」のリピート利用で、初めてのお店の利用は22.7%にとどまりました。リピートする店を決める理由は「料理がおいしい」69.6%、「コストパフォーマンスがよい」48.6%が上位。味と価格という土台の上に、客足の大半が「繰り返し」で成り立っています。
77.3%
外食の利用のうち77.3%は「行ったことのある店」のリピート利用。初めてのお店は22.7%にとどまる
出典:リクルート ホットペッパーグルメ外食総研「飲食店リピート実態&リピート要因調査」(2019/10)hotpepper.jp
この傾向は近年さらに強まっています。ぐるなびが2024年4月に20〜69歳の男女1,996人へ行った調査では、「過去半年で複数回外食したお店がある」人は76.9%と、2022年3月調査の70.0%から6.9ポイント増えました。集客の主戦場は、新しいお客様の獲得と同じかそれ以上に、「一度来た人が、もう一度来るか」にあります。だからこそ、リピート客の静かな離脱は、目立たないまま売上を削っていきます。
では、通っていたお店から足が遠のくとき、何が起きているのでしょうか。予約台帳サービスのトレタが「かつて常連として通ったが、行かなくなった店」について尋ねた調査では、理由は「お客さま都合」と「お店側の問題」がほぼ半々でした。お客さま都合の内訳は、1位が「進学・転職・転居などで通いづらくなった」36.4%。「他によく通うお店ができた」28.8%、「年齢や体調の変化」14.4%と続き、「特に理由はない」という答えも11.0%あります。
常連だった店に行かなくなった理由(お客さま都合の内訳)
出典:トレタ「常連さんが『店に行かなくなった理由』ランキング」(2019年2月調査・本調査n=221/2026-06-22閲覧) toreta.in
一方の「お店側の問題」も、1位は「料金やメニュー、味」に関わる変化(53.1%)で、「接客態度やサービス」24.1%、「店長やスタッフが変わった」22.8%と続きます。決定的な事件に怒って去るというより、お店か自分のどちらかが「変わった」ことで通う理由が薄れていく姿が浮かびます。美容室でも構図は同じです。行きつけの美容室をやめたきっかけは「美容室・美容師への不満」が43%にとどまり、「引っ越しなど自分都合」38%と「担当者の異動・退職」19%——合わせて57%は、不満以外でした(ヘアログ調べ・n=100)。
そして注目すべきは、離れたあとの気持ちです。トレタの同じ調査で、行かなくなったお店に「また行きたい」と答えた人は43.9%で最多。「行きたくない」は14.9%にすぎませんでした。
43.9%
一度「行かなくなった」常連の43.9%は「また行きたい」と回答。「行きたくない」は14.9%のみ
出典:トレタ「常連さんが『店に行かなくなった理由』ランキング」(2019年2月調査/2026-06-22閲覧)toreta.in
離れたお客様の多くは、お店を拒絶していない。生活が変わり、別の店に上書きされ、思い出す機会が減った——それだけで、足は遠のく。
裏を返せば、再来店は「思い出したとき」に起こります。ぐるなびの調査では、リピート来店のきっかけの1位は「そのお店のメニューが食べたくなった」(ディナー40.3%、ランチ38.6%)。広告を見たからでも、検索で偶然見つけたからでもなく、記憶の中からお店が呼び出された瞬間が再来店の起点になっています。リピートの決め手も「食べたい料理がある」49.4%が最多で、「料金がリーズナブル」45.0%、「自宅から近い・行きやすい」36.2%と続きます。
リピート来店の決め手(上位・複数回答)
出典:ぐるなび「外食でのリピート行動」ユーザー調査(2024/4・n=1,996) pro.gnavi.co.jp
「ふと食べたくなる」は、お店の記憶が残っていて初めて起こります。そして人の記憶は、接点がなければ日々薄れていきます。つまりリピートを増やす実務とは、味や接客の改善と並行して、「思い出してもらう接点」をお店の側が持つこと。ここが設計されているかどうかが、同じ満足度でもリピート率の差になります。
接点の代表は、メッセージが届く仕組み(LINE公式アカウントなど)と、財布やスマホに残る仕組み(ポイントカード・会員証)です。LINEは国内で月間1億人が利用し(2025年12月末時点・公式)、企業・店舗の公式アカウントを1社以上友だち追加している人は61.9%(クウゼン調べ・n=1,201)。追加する理由は「クーポンがもらえる」が70.4%で突出しています。会計時に「次回使えるクーポン」を添えて友だち追加を案内する——この帰り際の30秒が、忘れられないための接点になります。しかも届いたメッセージは約8割がその日のうちに開封されており(公式・2021年調査)、「思い出してもらう」即効性があります。
ポイントカードも、地味に見えて確かな「思い出しの装置」です。フュージョンの調査(n=1,000)では、9割以上が何らかのポイントを貯めており、新しいポイントサービスに参加したい条件は「ポイントが貯まりやすいこと」が63.1%で最多。一方で、飲食店のポイントカードを利用している人は23.5%と、小売店(44.1%)の半分程度にとどまります。多くの飲食店にとって、この接点はまだ空白地帯です。
ただし、接点は持ち方を誤ると逆効果になります。LINE公式アカウントをブロックした経験がある人は59.4%。理由は「メッセージが頻繁に届く」62.7%、「不要な情報ばかり」61.8%が上位でした(クウゼン調べ)。頻度を絞り、季節メニューや限定情報など「食べたくなる中身」に徹することが、接点を長持ちさせる条件です。整理すると、実務は3つ。①帰り際に接点を1つ受け取ってもらう(LINE・ポイントカード・次回予約のいずれか)、②月に数回、「食べたくなる」情報を届ける、③しばらく来ていないお客様に特別な一通を送る。43.9%のお客様は「また行きたい」と思ったまま、きっかけを待っています。
不満をなくすのは接客の仕事。思い出してもらうのは、仕組みの仕事。「また行きたい」43.9%を迎えに行く接点があるかどうかが、リピート率を分けます。
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