介護保険給付の費用額は、令和5年度に11兆7,186億円(前年度比+3.0%)。要介護(要支援)認定を受けた人は708万人と前年度から14万人増えました。障がい福祉サービス等の総費用額も2024年度に約4.2兆円(+12.1%)へ拡大しています。ところが同じころ、2025年の介護事業者の倒産は176件、休廃業・解散は653件——いずれも過去最多となり、合わせて829事業者が市場から退出しました(東京商工リサーチ集計)。利用は広がっているのに、退出は最多。その差を分けているのは「選ばれ方」です。デイサービス・訪問介護・障がい福祉(就労支援・放課後等デイサービス)・介護施設を運営する中小事業者の出発点として、公表データを整理します。
まず、市場の側です。厚生労働省「令和5年度介護保険事業状況報告(年報)」によると、介護保険給付の費用額は11兆7,186億円で前年度比+3.0%、要介護(要支援)認定者は708万人(+14万人)。障がい福祉の分野も、厚労省報告(介護ニュースJoint報道より・二次)によれば障害福祉サービス等の総費用額が2024年度に約4.2兆円(+12.1%)と急拡大し、伸びが最も大きいのは就労継続支援B型(+20.1%)でした。事業所の数で見ても、放課後等デイサービスは全国21,122か所(前年比+8.8%)、月間の利用者は55.7万人、就労継続支援B型の利用者は46.1万人にのぼります(厚労省「令和5年社会福祉施設等調査」)。利用する人も、使われる費用も、増え続けている分野です。
一方で、退出も過去最多を更新しました。東京商工リサーチの集計では、2025年の介護事業者の倒産は176件(前年比+2.3%)で過去最多。うち訪問介護が91件(+12.3%)と3年連続で最多を占めました。原因の内訳は売上不振が140件(79.5%)と大半で、人手不足関連も29件(+45.0%)と大きく増えています。倒産に至らない退出はさらに多く、同社の集計で2025年の休廃業・解散は653件(+6.6%)と過去最多。うち訪問介護が465件、通所・短期入所も95件(+35.7%)でした。倒産と合わせると、829の介護事業者が1年で市場から退出したことになります。
利用が広がっているのに、退出は史上最多——。この二つの数字が同時に成り立つのは、増えた利用がすべての事業所に均等には配られていないからです。倒産原因の79.5%を占めた売上不振は、多くの場合「利用者が集まらなかった」ことを意味します。地域に必要とされるサービスを提供していても、その情報が探している人に届いていなければ、選ばれる場面に立てない。ここで起きているのは、事業所の価値の問題ではなく、情報が届かないことによる機会のずれです。
介護・福祉の事業環境を、公表データで並べます(統計ごとに対象・年次が異なる点にご注意ください)。
11.7兆円
介護保険給付の費用額は11兆7,186億円(令和5年度・前年度比+3.0%)。要介護(要支援)認定者は708万人(+14万人)
出典:厚生労働省「令和5年度介護保険事業状況報告(年報)のポイント」(2026-07-13閲覧)mhlw.go.jp
176件
2025年の介護事業者の倒産は176件(+2.3%)で過去最多。うち訪問介護91件(3年連続最多)。原因は売上不振140件(79.5%)、人手不足関連29件(+45.0%)
出典:東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の倒産動向」(2026/1)tsr-net.co.jp
653件
2025年の介護事業者の休廃業・解散は653件(+6.6%)で過去最多。うち訪問介護465件・通所/短期入所95件(+35.7%)。倒産との合計829事業者が退出
出典:東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散動向」(2026/1)tsr-net.co.jp
人手が「不足」と答えた介護事業所の割合(令和6年度・調査回答事業所)
出典:介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」(2025/7・2026-07-13閲覧) kaigo-center.or.jp
介護労働安定センターの令和6年度調査(回答事業所ベース)では、事業所の65.2%が人手の「不足」を感じ、訪問介護員では83.4%にのぼります。しかも、調査対象の7職種すべてで不足感が前年度より悪化しました。人手の確保は、特定の事業形態だけでなく、調査に回答した介護事業所の全体で厳しさを増しています。
272万人
2040年度に必要とされる介護職員数は約272万人(2022年度比+約57万人)。2026年度時点でも約240万人(+約25万人)が必要
出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」(2024/7)mhlw.go.jp
厚労省の推計では、介護職員は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人が必要とされます。2022年度と比べてそれぞれ約25万人・約57万人の上積みです。働き手の確保が長期にわたる大きなテーマである以上、1つの事業所の視点では「働く人から選ばれること」が、そのまま事業を続けるための条件になっていきます。
介護・福祉の事業者にとって、「選ばれ方」は一つではありません。デイサービス・訪問介護・障がい福祉・介護施設のいずれでも、事業の継続は「ご家族・利用者から選ばれること」と「働く人から選ばれること」の両方で決まります。2025年の介護事業者の倒産(東京商工リサーチ集計)で、原因の79.5%を占めた売上不振は前者の、+45.0%と急増した人手不足関連は後者の課題を映しています。以下、二つに分けて整理します。
介護・福祉のサービスは、選ぶ人が複数います。デイサービスや介護施設ならご本人に加えてご家族とケアマネジャー、就労支援や放課後等デイサービスなら保護者やご本人が、地域の中から事業所を比べて選びます。その比べる入口は、紹介や口頭の情報だけでなく、検索・地図・事業所のホームページ・クチコミへと広がっています。
ここで思い出したいのが、先ほどの数字です。2025年に倒産した介護事業者の79.5%は売上不振、つまり利用者が集まらなかったことが理由でした(東京商工リサーチ集計)。丁寧なケアを提供していても、空き状況・送迎の範囲・施設の雰囲気・スタッフの様子といった情報がネット上で見えなければ、比べられる場面で候補に入らない。これは事業所の価値の問題ではなく、情報が届いていないことによる機会のずれです。
選択肢が増えるほど、この差は出やすくなります。たとえば放課後等デイサービスは全国21,122か所と前年から8.8%増加(厚労省「令和5年社会福祉施設等調査」)。同じ地域の中で複数の事業所が比べられる場面は、今後も増えていきます。「名前や地域で調べたときに、正確で新しい情報が出てくること」自体が、比較の土俵に上がるための条件になりつつあります。
もう一つの「選ばれ方」は、働く人からです。令和6年度介護労働実態調査(回答事業所)では65.2%が人手の不足を感じ、訪問介護員では83.4%。7職種すべてで不足感が前年度より悪化しました。そして厚労省の推計では、介護職員の必要数は2040年度に約272万人(2022年度比+約57万人)。働き手の確保は、一時的な波ではなく長期の構造です。
この構造は、すでに退出の理由にも表れています。2025年の介護事業者の倒産のうち、人手不足関連は29件と前年から45.0%増(東京商工リサーチ集計)。人が集まらないことが、そのまま事業を続けられない理由になり始めています。
そして求職者もまた、応募の前に事業所の名前で検索し、ホームページ・地図・クチコミ・SNSで職場の様子を確かめる時代です。職場の雰囲気やスタッフの声が見える事業所と、情報がほとんど見つからない事業所では、応募の入口で差が生まれます。ご家族向けに整えた「中の様子が見える情報」は、そのまま求職者への発信にもなる——二つの選ばれ方は、同じ土台の上にあります。
市場の拡大は、すべての事業所に均等には配られない。広がる利用と限られた働き手は、「情報が見える事業所」に集まっていく。
いま起きているもう一つの変化が、探し方そのものです。検索で生成AIを使う人は37.0%という調査があります。※介護・福祉だけを対象にした調査ではなく、全国10〜60代9,278名を対象にした、業種を問わない検索行動の調査です。「〇〇市 デイサービス 空き」「近くの 放課後等デイサービス 見学」のようにAIへ尋ねる人が現れ、AIの回答が比較の入口になる場面が出始めています。
37.0%
検索での生成AI利用率(全国10〜60代9,278名・業種を問わない一般調査)。介護・福祉に限った数値ではない
出典:CyberAgent「GEOラボ」第三弾(業種を問わない検索行動の調査)cyberagent.co.jp
AIの回答は、事業所の地図情報・ホームページ・クチコミ・第三者の言及を材料に組み立てられることがあります。だから、ご家族・利用者と働く人に向けて情報を整えることは、そのまま「AIに引用・推薦されやすい材料を整えること」にもつながります。
この構図を踏まえると、デイサービス・訪問介護・障がい福祉・介護施設の中小事業者の打ち手には、優先順位をつけられます。
介護保険給付は11.7兆円、障がい福祉サービスの総費用は約4.2兆円へと利用は広がっているのに、2025年の介護事業者の倒産176件・休廃業653件は過去最多だった。差を分けるのは「ご家族・利用者から」と「働く人から」——二つの選ばれ方であり、事業所情報・中の様子が見える発信・クチコミの整備が、規模を問わずその土台になる。
介護・福祉業界のために書き下ろした、この業界だけのデータ記事です。
訪問介護職の有効求人倍率は14.14倍(2023年度・全職業平均1.29倍)。応募者の86%が就職前に採用サイトを確認する一方(n=101・2022年)、HPで求職者へ発信する介護事業所は37.2%。“採れない”時代の職場の見える化を整理します。
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