2025年の訪日外客数は4,268万人と過去最高を更新し、外国人の延べ宿泊者数も前年比+8.2%と過去最高水準に達しました(速報値)。ところが同じ年、旅館の客室稼働率は38.4%——約6割の客室が空いたままです。さらに宿泊業では倒産と休廃業・解散をあわせて267の事業者が市場から退出し、その75.3%は三大都市圏以外の地方でした。市場は過去最高の水準で動いているのに、その需要がすべての宿に届いているわけではない——旅館・民宿・ゲストハウス・小規模ホテルの集客を考える出発点は、この「見つけられている宿」と「見つけられていない宿」の差を、数字で正しくつかむことです。
需要の側は、記録的な水準です。JNTO(日本政府観光局)によると、2025年の訪日外客数は4,268万3,600人(前年比+15.8%)で過去最高。観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年・年間値)でも、外国人の延べ宿泊者数は1億7,787万人泊(+8.2%)と過去最高水準に達しました。※この宿泊統計は速報値で、確定値では数値が変わる可能性があります。
ただし、全体を見ると景色は変わります。日本人を含む延べ宿泊者数の合計は6億5,348万人泊で前年比−0.8%、うち日本人は4億7,561万人泊(−3.8%)。つまり2025年の宿泊市場は、国内需要が減るなかをインバウンドが押し上げた構図です(速報値)。
そして、この需要の受け止め方には、施設タイプで大きな差がついています。客室稼働率は全体で61.8%。ビジネスホテル75.3%・シティホテル74.2%と都市型ホテルが7割を超える一方、旅館は38.4%にとどまります(速報値)。過去最高の訪日客が訪れた年に、旅館の客室は6割以上が空いていた——これが総括の芯になる数字です。
結果は退出の数字にも表れています。帝国データバンクによると、2025年の宿泊業の倒産は89件(+14.1%)と2年連続で増加。休廃業・解散の178件をあわせると計267の事業者が市場から退出し、その75.3%は三大都市圏以外の地方でした。一方で、旅館業の営業施設数は98,338施設(+5.2%)、簡易宿所は44,901施設(+7.1%)と増えています(厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」・二次情報経由で確認)。需要は過去最高、競争相手は増加、それでも退出は地方を中心に増えている——「見つけられる宿・選ばれる宿」とそれ以外の差が、数字の上で開いています。
宿泊業の経営環境を、公表データで並べます。
4,268万人
2025年の訪日外客数は4,268万3,600人(前年比+15.8%)で過去最高。外国人延べ宿泊者数も1億7,787万人泊(+8.2%・速報値)と過去最高水準
出典:JNTO「訪日外客数(2025年)」(2026/1)jnto.go.jp/観光庁「宿泊旅行統計調査」mlit.go.jp
客室稼働率(2025年・速報値)——旅館と他タイプの差
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値))」(2026-07-13閲覧) mlit.go.jp
都市型ホテルが7割超で稼働するなか、旅館は38.4%。市場は動いているのに、旅館の客室の6割以上は空いています。需要が「見つけやすく、予約しやすい宿」から順に埋まっていく構図が、稼働率の差に表れています(速報値)。
267事業者
2025年の宿泊業は倒産89件(+14.1%・2年連続増)に休廃業・解散178件をあわせ計267事業者が退出。その75.3%が三大都市圏以外の地方
出典:帝国データバンク「宿泊業の倒産動向(2025年)」(2026/2)tdb.co.jp
44.9%
旅館・ホテルの予約経路はOTA(宿泊予約サイト)経由が44.9%で過去最高(令和元年度比+14.0pt)。自社HP経由は12.6%、直接予約はあわせて27.4%
出典:日本旅館協会「令和6年度営業状況等統計調査」(原典は会員限定・二次記事で確認)kutikomi.com
予約の半分近くがOTA経由になった一方、自社HP経由は12.6%。OTAの手数料は国内系で8〜10%、海外系で12〜18%が目安とされ(公的統計ではなく目安です)、OTA経由の予約が増えるほど、同じ客室単価でも手元に残る額は薄くなりやすい構図です。OTAは「見つけてもらう入口」として重要ですが、そこにしか入口がない状態は、収益と顧客接点の両面で選択肢を狭めます。
マクロの数字は、1軒の宿の日常にこう翻訳できます。
①「見つからない」——訪日客は過去最高、外国人宿泊は+8.2%。それでも旅館の稼働率が38.4%にとどまるのは、需要が「探したときに出てくる宿」から先に埋まっていくからです。地図・検索・OTA・SNSのどこにも十分な情報で載っていない宿は、比較の土俵に上がる前に候補から外れます。
②「OTAだけに頼る」——予約の44.9%がOTA経由で過去最高。OTAの露出は集客に直結する一方、自社HP経由は12.6%にとどまり、手数料(国内8〜10%・海外12〜18%が目安)の分だけ利益が圧迫されやすくなります。直販の導線を持たない宿は、価格と露出の主導権を外部に預けたままになります。
③「比較で選ばれない」——旅館業の営業施設は98,338施設(+5.2%)、簡易宿所は44,901施設(+7.1%)と、比較される相手は増え続けています。候補が増えるほど、旅行者は写真とクチコミで宿を絞り込みます。実際の魅力がどれだけあっても、それが見える形になっていなければ、初めてのお客様の判断材料にはなりません。
④「地方ほど、ずれが大きい」——退出した267事業者の75.3%は三大都市圏以外でした。地方の宿ほど「そこに行く理由」から探されるため、情報が届いているかどうかの差が、都市部よりも大きく稼働に響きます。逆に言えば、地方の宿こそ、見つけてもらう仕組みの整備で伸びしろが残されているとも読めます。
需要は過去最高でも、すべての宿に均等には配られない。増えた旅行者は、「見つけられる宿」「選ばれる宿」へ先に流れている。
いま起きているもう一つの変化が、探し方そのものです。検索で生成AIを使う人は業種を問わず全体で37.0%。「◯◯温泉 家族旅行 おすすめの宿」のようにAIへ尋ねる人が現れ、AIの回答が宿選びの比較候補の入口になる場面が増えています。※これは宿泊業だけを対象にした調査ではなく、全国10〜60代9,278名を対象にした検索行動全体の調査です。
37.0%
検索で生成AIを使う人の割合(全国10〜60代9,278名・業種を問わない検索行動全体の調査)
出典:CyberAgent「GEOラボ」(業種を問わない検索行動全体の調査)cyberagent.co.jp
AIの回答は、その宿のGoogleマップ情報・クチコミ・公式サイト・第三者の言及(サイテーション)を材料に組み立てられることがあります。だからいま地図・クチコミ・公式サイトの情報を整えることは、そのまま「AIに引用・推薦されやすい材料を整える」ことにつながります。
この構図を踏まえると、旅館・民宿・ゲストハウス・小規模ホテルの打ち手には優先順位をつけられます。
訪日客は過去最高なのに、旅館の6割の客室は空いている。増えた需要は、地図・クチコミ・写真で「見つけられる宿」と、OTAと直販の両方に入口を持つ宿に集まっており、地図の整備・クチコミと写真・直販導線・多言語対応が、宿の規模を問わず集客の土台になっている。
宿泊・旅館業界のために書き下ろした、この業界だけのデータ記事です。
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