「人手が足りない」「跡継ぎがいない」「新しい取引先をどう開拓するか」——中小製造業の経営課題は、この3つに集約されつつあります。そしてこの3つは、いずれも「会社がWeb上でどう見えるか」という同じ一点につながり始めています。系列と紹介で回ってきた製造業の営業のすぐ外側で、何が起きているのか。公的統計と国内調査のデータで確認します。
まず「人」。2025年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2023年の1,055万人から2024年は1,046万人へとわずかに減少しました。2002年からの長期で見ると、若年就業者数は減少し、高齢就業者数は増加しており、現場の年齢構成は着実に高齢化しています。さらに同白書は、製造業の事業所の6割以上が人材育成の問題として「指導する人材が不足している」を挙げていることも示しています。人が採れないだけでなく、教える側も足りない——技能承継の土台が細っています。
人手の不足感は、数字ではっきり確認できます。中小企業の従業員数過不足DI(従業員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた指標)で、製造業は2024年にマイナス18.2。2020年に感染症の影響で一時「過剰」へ振れたものの、その後は不足に転じ、感染拡大前の2019年と同じ水準の人手不足に戻っています。2025年版中小企業白書は、2024年に人手不足による倒産が過去最多件数を記録したことにも触れています。
次に「承継」。帝国データバンクの2025年調査では、全国の後継者不在率は50.1%(前年から2.0ポイント低下)。製造業は42.4%と業種別では最も低い水準まで改善していますが、それでもなおおよそ5社に2社は後継者が決まっていません。
そしてもう1つ、静かに進んでいるのが「販路」——発注側の行動の変化です。取引先の購買担当者・決裁者は、営業と会う前にWebで候補企業を調べるようになりました。相見積りの候補選びも、既存取引先の見直しも、まずWeb上の下調べから始まります。次の数字が、それを示しています。
42.4%
製造業の後継者不在率。業種別では最低水準だが、なお5社に2社は後継者不在(全国平均は50.1%)
出典:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」(2025/11・分析対象約27万社/2026-07-07閲覧)tdb.co.jp
−18.2
中小製造業の従業員数過不足DI(2024年)。マイナスは「不足」超過=コロナ前(2019年)と同水準の人手不足
出典:2025年版ものづくり白書 概要(中小企業庁「中小企業景況調査」2024年12月/2026-07-07閲覧)mhlw.go.jp
発注側の下調べを示すのが、次のデータです。BtoBの顧客が製品・サービスの購入のために参考にする情報源を聞いた国内調査では、「企業のWebサイト」が58.3%で最多。カタログ・パンフレット(37.1%)、営業員・技術員による対面の説明(36.0%)、展示会(27.7%)を上回りました。対面の説明より先に、Webサイトが見られているのです。
BtoB顧客が製品・サービス購入の際に参考にする情報源
出典:トライベック・ブランド戦略研究所「BtoBサイト調査2025」(2025年4月調査・197サイト対象/2026-07-07閲覧) brand.tribeck.jp
タイミングはさらに早いことも分かっています。BtoB商材の決裁者500名への調査では、84%が「営業担当者と会話・連絡・商談をする前」に、購買の意思決定を左右する情報へ到達していました。購買を決めた情報源も、「営業担当者との商談・問い合わせ」以外が67%を占めます。別の国内調査でも、検討段階で使う情報源として「提供企業のWebサイト」は35.4%と、雑誌・専門誌(31.1%)や展示会(25.7%)を上回りました。
84%
BtoBの決裁者の84%は、営業担当者と接触する前に「購買を決定づける情報」へ到達している
出典:wib「BtoBセールスの購買決定に関する独自調査」(2024/2・n=500・決裁者対象/PR TIMES)prtimes.jp
第一に、「見つからない」。購買担当者の下調べはWebから始まるため、加工内容・設備・対応領域がWeb上に書かれていない会社は、比較検討のリストに最初から載りません。相見積りで負けるのではなく、相見積りに呼ばれない。しかもこの機会損失は発注側の画面の中で起きるため、社内からは一切見えません。
第二に、「選ばれない」。サイトがあっても、対応できる加工領域・材質・ロット、保有設備の一覧、品質保証体制、納入実績が書かれていなければ、購買側は判断材料を持てません。BtoBの購買は担当者個人の一存では決まらず、比較表と稟議を通ります。社内に説明できる材料を出さない会社は、検討の途中で静かに外れていきます。
第三に、「人が採れない」。若年就業者が減り続けるなかで、求職者が会社を知る入口もWebです。6割以上の事業所が「指導する人材が不足している」と答える現場では、採用の遅れがそのまま技能承継の遅れに直結します。取引先に向けた情報発信と、働く人に向けた情報発信は、同じ土台の上にあります。
そして「承継」。営業が経営者やベテランの人脈に依存したままだと、代替わりの局面で販路ごと細るリスクがあります。Web上に蓄積された技術情報・実績・引き合いの導線は、特定の個人に紐づかない「会社の営業資産」です。後継者不在が4割を超える業界だからこそ、販路の属人化を解くことは、承継準備の一部でもあります。
発注側の比較は、営業が知らない場所で先に始まっている。Webに情報がない会社は、負ける前に「呼ばれない」。
2025年版中小企業白書によると、中小企業がDXに向けて実施しているデジタル化の取組は、取組段階を問わず「自社ホームページの作成・更新」が最多回答でした。多くの会社が最初の一歩に選んでいるのは、Webの整備です。データを踏まえると、優先順位は次のように整理できます。
① 自社サイトに「判断材料」を書き切る:対応できる加工・材質・寸法・ロット、保有設備の一覧、品質保証体制(検査機器・認証)、納入実績。購買担当者がそのまま比較表と稟議書を作れる粒度で明文化することが出発点です。
② 技術キーワードで見つかる状態にする:「加工方法×材質×地域」など、発注側が実際に検索する言葉に対応するページを用意する(検索エンジン対策・AI検索対策)。下調べの入口に存在しなければ、その先はありません。近ごろは調達・発注の担当者も、生成AIに「〇〇ができるメーカーは?」と尋ね始めています(検索で生成AIを使う人は業種を問わず全体で37%※これは製造業だけを対象にした調査ではなく、検索行動全体の調査です)。AIの回答が比較候補の入口になる場面が増えており、その回答に自社の技術情報・仕様・納入実績が引用されるかどうかが候補入りを左右します。技術ページ・実績・第三者の掲載を整えておくことが、そのままAIに引用・推薦されやすい材料になります。
③ 事例・実績コンテンツを蓄積する:試作対応、短納期対応、VA/VE提案など「どんな課題をどう解決したか」を事例として公開し、技術力の証拠を積み上げます。
④ 問い合わせ・見積り導線を整える:図面・仕様書を送付できるフォームや、対応可否の返答目安の明示など、下調べから引き合いへ進む段差を下げます。
⑤ 採用情報を同じ熱量で整備する:仕事内容・育成体制・資格支援・現場の写真。販路開拓と人材採用は、同じ「Webで見つかり、選ばれる」構造の上にあります。
発注担当者は、会う前にWebで会社を選び終えている。設備・技術・実績をWebに書き切った会社だけが、相見積りの候補に入り、採用の候補にも入る。
製造業界のために書き下ろした、この業界だけのデータ記事です。
製造業の購買担当者の61%は、事前にWebで比較検討し候補を数社に絞ってから問い合わせる。製品選定では75%が検索エンジン、70%が企業サイトを利用し、比較は8割超が3社以下。技術情報と問い合わせ導線が受注の起点です。
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